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グーでドラミングをする男

寒さで目が覚める。随分と背中が痛い。どうやら床で寝ていたようだ。のども埃っぽいし、寝るのはベッドに限る。そこまで考えて異変に気付く。天井があまりに高いのだ。暗さもあるだろうが、見えないというのはあまりにおかしい。そう思って体を起こすと、手のひらに砂利が食い込む感覚がした。

ここは私の部屋ではない。何か広い洞窟のような場所だ。夢遊病だか、誰かに運ばれたか知らないが早く出口を探さなくては。そう思って立ち上がったところ、向こうから人影が近づいてきた。

その男はこの寒さなのに平気な顔で半袖を着ており、髪は短く刈り上げていて歯は不自然なぐらい真っ白だった。歯が白すぎる人間は信用ならないというのは物語の鉄則だが、一人でいるのは心細いため結局私は彼と行動を共にすることになった。

「君は何かスポーツはやっているかい?」
長い沈黙を見かねてか彼が口を開く。
「僕はアルティメットタックボールとスポーツチャンバラをやっているよ」
知らない競技だ。
「体を動かすのは何にも勝る娯楽だからね」
そういう人もいるだろう。

やはりこいつは信用ならないのかもしれない。あまりにも歯が白すぎる。彼の歯で反射した光が目にちらちらと入ってきて話の内容が全く理解できなかった。

するとその時、彼の歯が反射する光にひかれたか、イノシシのような獣が私たちの前に現れた。体躯は非常に大きく、鼻息荒くよだれを垂らしている。専門家ではない私にも危険な状態にいるということだけは分かった。

「こういう時は変に下手に出てもいけない。威嚇して自分を大きく、強く見せることが大事なんだ」
そういうと彼は両手をグーにして自分の胸をたたき始めた。そう、彼はグーでドラミングをしているのだ。

そこで私は確信した。彼を信じてはいけない。グーでドラミングをする人間だけは信じてはいけないのだ。私は彼に気づかれないよう、息を殺して大きめの石を持ち上げると勢いよく彼の後頭部に振り下ろした。

「どうして……」
「グーでドラミングをするようなやつは信頼できない」
「理解に苦しむな……別に……いいじゃん」
そう言い残して彼は物言わぬ死体となった。
獣は一連の流れを見てドン引きしたのかすごすごと引き下がっていった。

しばらく進むと出口につき、私は元の日常に帰ってきた。やはり、グーでドラミングをする人間は信じていはいけなかったのだ。