インターネット加湿器

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ストレッチ

家にこもりがちな現代人はなにかと体が凝る。座ってインターネットしているか寝転がってインターネットをしているかの生活をしている私はその例にもれず体がバキバキだ。背中は丸まっているし、首は動かすたびにパキパキいうし、多分足の長さは左右で違う。

そんな状態がずっと続いているので当然体調が悪い。具体的なことは言えないが、このままでは確実に体のどこかに取り返しのつかない不調をきたす。そう思ってからはなるべく散歩をしたり、ストレッチを日課にしたりしてなんとか体を動かそうとしている。

今朝は特に冷え込んでいた。昨夜は雪が降っていたし、カーテンを閉め忘れて寝たようだからそれも納得だ。冷え切った部屋の空気に身をさらしたくはないが意を決して布団をはねのけ起き上がる。寝ている間に固まった体をほぐすため大腿四頭筋ハムストリングスを伸ばす。じわじわと血がめぐるような感覚がして気持ちがいい。続けている間に体の柔軟性が上がったのか、最初のころは届かなかった所にも手が届くようになっていることに気がつく。目に見えて上達が感じられるとがぜんやる気が出るもので、私は全身の筋肉を伸ばしに伸ばした。そして、伸ばしすぎた。

気づいたときにはもう遅かった。私の体は伸びきって、総距離が4万kmに達していた。地球一周と同じ長さだ。まずい。このままでは……このままでは、間寛平が来てしまう。アースマラソンのコースと勘違いして、間寛平が来てしまう。それはとても困る、なぜなら知らない人だから。私は間寛平についてアースマラソンをしていた人という情報しか持っていない。しかもウィキペディアで調べたら芸人らしい。知らない芸人に体の上を走られることほど怖いものはない。せめてネタだけでも調べておくかとウィキペディアを読み進めると「主な持ちネタ・ギャグ」の欄にたどり着くが、文字起こしされたネタは血の気が引くほどつまらなかった。それは仕方のないことだ、流れとか声の調子とかいろいろなものがそぎ落とされてただの情報になり果てたネタがつまらないのはしょうがない。文字起こしされて面白い小島よしおの方が珍しい。

ふいにつま先に何かが触れた感覚がした。ああ、間寛平が来てしまった。もうどうしようもない、体の上を知らない芸人に走られるしかない。そう思ったがどうも様子がおかしい。体の上を動くのは一人ではないような気がする。そう思って足の方に目を向けると黄色い全身タイツに身を包んだ何かがいっぱいいた。ストレッチマンだ。きっとストレッチパワーに引かれて集まってきたのだろう。私は胸をなでおろすと、集まったストレッチマンをすべて捕まえてメルカリで売り払った。760円で売れた。