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鏡の中の丸善に行きました! 2021/03/02

今日は本屋に行きました。実は私は本屋に行って本を買ったり買わなかったりすることが趣味なのです。いつも家の近くの丸善に行くのですが、今日は趣向を変えて鏡の中の丸善に行くことにしました。赤コインを集めたり大砲でぶっ壊したりしてスターをコツコツ集めていたのですが、ある程度貯まった辺りからパワーフラワーを使えば鏡の中にも入れるようになったのです。

家庭菜園からパワーフラワーを一本手折って、姿見を携え丸善に向かいます。中に入るためには手鏡では足りず新潮より少し低いぐらいの大きさの姿見を持って行く必要があります。大分目立ってしまってはいましたが、通報されそうになったら鏡で反射させた太陽光でひるませた隙に逃げ出せばいいので問題はありません。

丸善に着くと店の内と外の正確な境目に姿見をおきます。これは脚の位置ではなく鏡面の位置が境目と重なるようにしなくてはいけません。そのあとパワーフラワーをライターで炙り、その煙を鼻から吸い込みます。この時点で店員が止めにきましたが相手にせずそのまま待ちます。身体が透けてきたころを見計らって鏡の中に入ります。これで入店完了です。

とりあえずよく見ていた小説の棚にでも行こうかと思ったとき、思い通りの方向へ進めないことに気づきました。右に曲がろうとした足はどうしたことか左へ向かっていきます。左に何があるのか確かめようとした頭は右を向きました。どうやら反転して身体が動くようです。(鏡の中だからって、そんなわけあるぅ~? ていうか正直未だに鏡が反転してるってどういうことかよくわかってないんだよね)とは思いましたが受け入れるほかありません。反転した身体の操作に慣れるために反復横跳びを繰り返していると、奥からただならぬ雰囲気の老人が歩いてきました。節くれ立った杖をつき、レモンが連なって数珠のようになっている首飾りをかけています。きっとあの人が鏡の中の丸善の長に違いありません。私は権威にめっぽう弱いのでその老人にかけより「長!」といいながら膝をつきました。このとき右膝を立てるつもりだったのですがとっさのことだったので左膝を立ててしまいました、失態ですね。

頭を垂れていると「そうかしこまりなさるな、若人よ」と老人が口を開きました。「わしは長ではない、この丸善の店長じゃよ」

「長ぢゃん」

私の中のギャルが出てしまいました。長に対して無礼な口をきいてしまった恐怖におののいていましたがどうやら老人の様子が変です、明らかに顔色が悪くなりうわごとのように「私が......長? いやまさか、そんなはずが……」と繰り返しています。

私は権威には非常に弱いですが、弱った権威には非常に強く出るので老人に言います。

「店『長』ってことはさあ、『長』ぢゃね?」
「ああああああああっ!」

断末魔を挙げながら老人の身体が塵となって崩れていきます。それと同時に鏡の中の丸善もゆがんでいき、気づけば私はもとの丸善に立っていました。どうやら鏡の中には入れるようになっていたのはあの老人の力だったようです。